石坂洋次郎 著 『海を見に行く』読了。

石坂洋次郎というと、私が小学生の頃、松原智恵子が女主人公役のテレビドラマをよくやっていて、結構楽しんで見ていた。その原作者の印象が強い。
あの時代は、少女マンガも西谷祥子とか本村三四子とかのラブコメが流行ってたりして、おんなじようなノリだった気がする。
なので、一般大衆受けする流行作家というイメージだったのだけれど、ブックオフで見つけ、解説を読むと、『若い人』がヒットして一躍有名作家になる前のごく初期の短編集ということだった。
で、105円だし、ちょっと読んでみるかということで買ってきた。
表題作の『海を見に行く』は昭和2年2月に発表されたものだそうだ。ということは、私の、認知症で何もわからなくなってベッドに寝たきりのあの母がまだ生まれて数ヶ月という時代だ。そんな時代に書かれたものなのか、と考えると感慨深い。
他の六篇も、それぞれにとても興味深いものばかりだった。
作家としての天賦の才を持っていたんだなあ。
Wikipediaによると、還暦を過ぎても盛んに書いていたのに、71歳の時に奥さんを亡くし、それから意欲を失ってしまい、最後は認知症になってしまったとか。
『海を見に行く』も、学生結婚した夫婦の家が舞台だが、自身も学生結婚だったらしい。小説の中に、夫婦が罵詈雑言を浴びせあったりする場面が出てくるが、私小説とまではいかなくても、自身の体験も入っているのかもしれない。ごく若い頃からずっと一緒にやってきた妻を失うということが、石坂氏にはかなりの衝撃だったんだろうな。
そんなことを考えて、自分のことに思いをめぐらすと、夫にとって、私という存在がどのくらいの位置を占めているのか、ちっぽけな存在なのか、つい、考えはそこにいってしまう。